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鳥の骨で歯を守ろう!

  • (2011/11/18)
  • カテゴリー: General

鳥骨炭ってご存知ですか?

読んで字のごとく鳥の骨を加工して炭にしたもののことです。「なにそれ?ただのゴミじゃん」と思うなかれ。これがなんと環境浄化に役立てられようとしているのです。

今回は鳥骨炭を使った水質浄化に取り組んでいる研究のご紹介です。


フッ素濃度が高すぎる スリランカの飲料水事情 

研究が行われているのはインド洋の島国、スリランカです。この国の内陸部の乾燥地域では地盤からフッ化物が多く溶け込むため地下水のフッ素濃度が平均で5mg/L(日本の水道水基準値は0.8mg/L以下)と高く、15歳以下の子供達の90%に斑状歯という歯のフッ素過剰摂取症状が起きていると報告がされています。

斑状歯は命に関わることはありませんが、歯に褐色の斑点や染みができてしまって見栄えが悪くなり、酷くなると歯の一部がすり減ったり、小さな孔が開いたりする症状が現れます。

 

「じゃあ遠くから引いてきた水道水を飲めば?」と思われるかもしれませんが、発展途上国では水道すらない地域も少なくありません。また1本約30円のミネラルウォーターも住民には高価なので、地下水を飲まなければ生活できないのが現状です。

先進国ではイオン交換樹脂を使った浄水システムなどで飲料水のフッ素を除去できますが、これらも高価すぎてこの地域に導入するのは非常に難しいのです。

 

ゴミを有効活用 骨炭 

そこで考え出されたのは、現地で捨てられた動物の骨を加工して、骨炭を作って水質浄化剤として使用する方法です。骨炭の主成分はハイドロキシアパタイトであり、フッ素とハイドロキシアパタイトが以下の化学反応を起こすことが期待されます。

 

Ca10(PO4)6(OH)2 + 2F- → Ca10(PO4)6F2 + 2OH-

 

骨炭は工場などですでに水質浄化剤として導入例があり、またゴミを有効活用しようとするわけですから原価を非常に安価に抑えることができる可能性があります。

 

原料入手の意外な落とし穴 

骨炭で実験する方針は決まりましたが、調べてみるとスリランカでは原料となる骨の入手が簡単でないことが分かってきました。一般に骨炭は体の大きな家畜である牛や水牛の骨が原料にされますが、スリランカでは住民の約1割がヒンズー教徒です。ヒンズー教では牛を聖なる動物として崇拝するので、牛の骨の加工は教義に反する行為なのです。もちろん牛肉を食べることも禁じられているので、スリランカ国内では牛や水牛の骨を入手することは難しく、狂牛病問題で牛の骨の輸出入に厳しい制限がかけられている現在では、外国からの入手も難しいのです。

 

次に豚の骨も候補に挙がりましたが、こちらも宗教上の問題がありました。スリランカでは住民の約1割がイスラム教徒で、イスラム教では豚は不浄なものとされています。不浄なものを使った飲料水では、イスラム教徒は飲んでくれないと予想されるわけです。

 

そこで最終的には鳥の骨が実験に使用されることになりました。まず鳥の骨なら、これらの宗教上の問題がないということが現地で実際に確認されました。またスリランカでは鶏肉の消費量が多く、鳥の骨は廃棄物として大量に捨てられていることも確認され、安価な水質浄化剤の候補となり得ることが分かりました。

 

いよいよ鳥骨炭で実験! その実力は? 

フッ素除去実験には、お惣菜として売られている鳥の足の唐揚げから肉の部分を除去し、加熱などの加工をしたものが使用されました。こうして作られた少量の鳥骨炭を高フッ素濃度溶液に混ぜて撹拌したところ、分析装置で測定できないほど濃度が減少したことが確認されました。また冷蔵庫の脱臭剤に使用されている活性炭(臭い成分を吸着させるタイプの浄化剤の一種)ではフッ素濃度が減少しなかったことから、フッ素は吸着ではなく上記の化学反応で溶液から除去されていると考えられました。

 

次に管に3gの鳥骨炭を詰めて同じ溶液を循環させてみたところ、大体コップ1杯の高フッ素溶液が約2時間半でWHOの国際基準値以下になることが分かりました。2時間半は飲料水を作るには長過ぎるので、実験結果から1分でフッ素濃度を減少させるのに必要な時間を逆算してみたところ、約600gの鳥の骨から作る鳥骨炭が必要という結論になりました。

 

部位によっても変わりますが、骨付きフライドチキンは1個約100g、骨の重さがそのうちの10~20%と考えると、フライドチキン30~60本で600gの鳥の骨が手に入るわけですね。鶏肉を多く食べる地域なら、家庭でもそれほど長い期間かけなくても入手できると思われます。

 

では鳥骨炭を使ったフッ素除去材はトータルでどのくらいの水を浄化できるのでしょう?この実験はまだ行われていませんが、ヒントはあります。アフリカのタンザニアで行われた同様の実験では、牛の骨炭をつめた長さ約50cm、太さ30cmのフィルター2個を水タンクの入口と出口につけることで、スリランカの約4倍ある現地の高フッ素濃度水を350Lまでタンザニア基準値以下にすることができたと報告しています。日本人は飲料水として1日に約1 Lの水を飲むと言われていますので、この量で少なくとも数か月から1年程度相当の飲料水を浄化できそうです。また骨炭は再加熱することでフッ素を飛ばすことができるので、再利用することもできます。

 

鳥骨炭を使用した水質浄化材の実用化にはまだ実験でいろいろと確かめないといけないですが、今後の研究の展開に期待したいところです。(文・黒澤 勝彦)

 

 

<参考文献>

1)    川上智規ら, 鳥骨炭を用いた飲料水からのフッ素イオンの除去, 71-74, Journal of Ecotechnology Research, 16(2) (2011)

2)    Kasaeva, M. E., Optimization of regenerated bone char for fluoride removal in drinking water: a case study in Tanzania, 139-147, Journal of Water and Health (2006)

3)    増山和晃ら, 生物系産業廃棄物からの活性炭製造と水処理への応用, 100-102, 三重県工業技術総合研究所研究報告, No. 24 (2004)

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