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皆さんは、「脂質」と聞いて、何をイメージしますか?
生クリームたっぷりのケーキ、バターの風味豊かなデニッシュパン、肉汁を含んだジューシーなステーキ…。どれもおいしくて魅力的だけど、これら脂質を多く含んだ食品の取りすぎは肥満のもとですよね。
脂質には「肥満」に直結するネガティブなイメージがあると思います。でも、脂質が私たちの体の中で行っている重要な役割を知れば、そのイメージはちょっと変わるかもしれません。
細胞膜の形成〜脂質の重要任務〜
脂質の取りすぎは、メタボの原因として有名ですね。
脂質をとりすぎると、内臓脂肪の蓄積をまねき、脂肪細胞から血圧、血糖値を上昇させる物質が分泌されたり、血圧を下げる働きをする、インスリンの分泌が抑えられたりします。すると、動脈が硬化し、血管が詰まって、心筋梗塞や脳梗塞が起こり、死にいたるという最悪のシナリオに…。
脂質にはよくないイメージが付きまといますが、実は、生命にとってなくてはならない重要な物質です。脂質にはいくつか役割があり、エネルギー源としての役割以外に、細胞をかたち作る「細胞膜」をつくるという役割があります。この細胞膜の形成は、脂質にとって最重要任務といっても過言ではありません。脂質がなければ、細胞の中と外がごちゃ混ぜになり、細胞自体、存在することができないのです。
では、脂質はどのようにして細胞膜を形成しているのでしょうか。
動く膜をつくるブロック、脂質分子
細胞膜の主な構成成分は「リン脂質」です。リン脂質は、水にはなじみにくい一方、油にはよく溶ける脂肪酸尾部と、水に溶け油には溶けにくいリン酸基頭部から構成されています。
水中にリン脂質の分子がたくさんあると、水と不仲な脂肪酸尾部は水を押しのけて脂肪酸尾部どうしで密に並び、水と仲がよいリン酸基頭部は水の方を向くように分子が集合します。その結果、内側に脂肪酸尾部、外側にリン酸頭部が並んだ、二重層の膜ができることになります。
こうしてできる細胞膜は、厚さがわずか5 nm!これは、食品用ラップフィルムの1000分の1という薄さです。

この薄ーい膜、実は家の壁のようにただじっとして外と内を分け隔てているわけではありません。膜を構成するひとつひとつの脂質分子は、常に落ち着きなく膜平面内をすばやく動き回っています。そして、膜の中には様々な種類のタンパク質がぷかぷか浮き、膜内を移動しながら、それぞれ持っている重要な仕事をこなしています。栄養物やイオンを細胞内外に通したり、外からの信号をキャッチして細胞内に情報を伝えたりなど、タンパク質によって、細胞膜ではいろいろな生命活動が起こっているのです。
人工細胞膜「リポソーム」
体内では、脂質分子というパーツを使って細胞膜がつくられるわけですが、これを人工的につくって利用しようという試みが、すでになされています。リン脂質を主成分とした脂質二重膜からなる人工の閉鎖小胞、「リポソーム」です。
リポソームは下図のような構造をしています。この構造は、脂質二重膜がくるりと丸まった球状をしており、内部に水を含む空間があります。
油に溶ける物質は脂質二重層に、水に溶ける物質は内部の水相に溶け込むので、リポソームは、油と水のどちらに溶ける物質でも含むことができ、自分自身と一緒に持ち運ぶことになります。
また、リポソームは、細胞膜と同じ膜構造なので、細胞と融合することができます。つまり、リポソームに薬(水に溶けるものでも、油に溶けるものでも可)を包含させ、細胞の中へ薬を届けることが可能なのです!リポソームのこの性質を使った薬は、すでに利用されはじめています。

例えば、リポソームは、血中で構造を維持したまま安定に存在できるため、抗がん剤を体内のがん組織にだけ届けるために使うことができます。
がん組織内部は新しい血管を活発に作っており、そのような血管には数百nmのすき間が存在しています。このため、リポソームは、血管の隙間から漏れ出し、がん組織内にたまっていきます。そして、がん細胞の細胞膜と融合して、細胞内に抗がん剤を放出するのです。抗がん剤をがん組織にだけ届けることができれば、正常細胞を傷つける危険がなくなり、抗がん剤の副作用を軽減することができます。
米国、日本でDOXILという名前で使われる、リポソームを利用した抗がん剤は、皮膚がんの一種であるカポジ肉腫に使われ、脱毛や嘔吐などの強力な副作用を劇的に抑えています。

普段は太るもととして悪名高い脂質ですが、実は、体内で重要な役割をしているとともに、薬の技術にも応用される物質なのです!そう考えると、脂質のイメージ、変わってきませんか。(文・三木 祐子)
<参考文献>
1) 中村 桂子・松原 健一 監訳.Essential 細胞生物学.南江堂(2008)
2) 田畑 泰彦 編集.絵で見てわかるナノDDS.株式会社メディカルドゥ(2007)