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私は高校生のとき、バドミントン部に入っていました。
バドミントンはシャトルに対してすばやく反応することがとても重要です。試合でシャトルが飛んでくるのを待っているときにじっと立っていたのでは速く反応することができません。ステップを踏んだり、ゆらゆらと揺れたり、人によってやり方は異なるものの、シャトルが飛んでくるのを待っている間も体を動かしていると、速く反応できるのです。
止まらずに動き続けること。それが、次の行動にすばやくうつるために重要なのです。実は、このことはバトミントンに限りません。生き物の世界でも同じなのです。
環境に合わせて生き方を変える
今回の登場人物(登場生物?)は、大腸菌と細胞性粘菌。大腸菌は、その名のとおり人間をはじめ、ほ乳類の腸内に棲んでいる、1mmの1000分の1ほどの大きさしかないとても小さな生き物です。中にはO-157のように害のある種類もいますが、ほとんどの種類が無害で、研究によく使われています。
一方、細胞性粘菌は、棲んでいる場所は森の木陰が多く、大きさは大腸菌の10倍くらい。普段はアメーバ状のかたちをしています。
棲む場所が大きく違う両者が、自然界で出会うことはほぼありません。彼らをエサのゼリーが入ったシャーレの上で一緒に培養すると、増殖するスピードの速い大腸菌が先に増殖し、その後に細胞性粘菌はそれを食べて数を増やします。すると、いずれ細胞性粘菌にとっては究極の選択を迫られることになるのです。すべての大腸菌を食べ尽くしてしまえば、エサがなくなってしまいます。しかし、食べ続けなくては生きることはできません。いずれの道も、粘菌にとっては「飢餓」という苦しい状況が待っています。
実際に培養してみると、2週間ほどでどちらもほぼ全滅、もしくは仮死状態となりました。ところが、このまま1か月ほど培養を続けると、おもしろい現象を観察することができました。シャーレの上に、直径1cmくらいの大きさのドーム状のかたまりがいくつかできていたのです。
これを調べてみると、主に多糖類からできており、大腸菌と細胞性粘菌がその中で共存していました。大腸菌は粘菌の分泌物を食べ、粘菌は増殖した大腸菌を食べるという共生関係ができていたのです。さらによく観察してみると、大腸菌はつながって長くなり、粘菌は単独で生息しているときの半分程度の大きさになっていました。
柔軟性のカギは「ゆらぎ」にある
どうして被食−補食関係から共生関係へと変わることができたのでしょうか。そこには、大腸菌の「ええかげん」な性質が大きく関わっていました。ドーム状のコロニーの中にいる大腸菌が、体内でどのような種類のタンパク質を、どのくらい作っているのかを調べてみると、驚くことに、全種類のうちの21%でその量が増え、15.6%で減っていました。こうすることで、エネルギーや物質生産を抑え、ストレスを感じにくい性質へと変化していたのです。この変化によって、環境の変化にうまく対応することができたと考えられます。
さらに詳しく調べてみると、共生関係型の大腸菌は、被食—補食関係のときにも少数ですが存在することがわかりました。もともと少数存在していた共生関係型の大腸菌の数が、細胞性粘菌との出会いによって大幅に増え、集団全体の性質が粘菌と共生できるように変化していたのです。
生き物は、環境に一番適応している性質のものが生き残ることで、進化をしてきました。しかし、適応する方法はそれだけではないのです。大腸菌は「環境に一番適応している性質じゃなくてもええやん、ええかげんに適応してても十分元気に生きてられるで~」という感じで、物質生産を抑えた状態や、どんどん増殖する状態など、自分の性質がふらふらと変化する幅を持っています。しかし、この「ええかげん」にゆらいでいるおかげで、予想外の環境変化が起こった場合に「あ、こっちの性質に移った方が元気でいられるやん」とすぐに適応することができるのです。
この研究を行った四方哲也教授は、この「ゆらぎ」を真似することができれば、もっと融通の効く情報ネットワークをつくることができるのではないかと考えています。東日本大震災のとき、電話網はパンクしてしまいました。もし、電話網のシステムに生き物のような柔軟性があれば、そのような予想外のできごとが起こったとしても、別の回線を使うなどいつもとは違うルールを適用することで、あのようなパンクを起こさずに済んだかもしれません。生き物のもつしくみには、このように私たちの生活をさらに便利にするためのヒントが隠されているのです。(文・高橋 裕佳)
<参考文献>
1) M.Todoriki et al.,An observation of the initial stage towards a symbiotic relationship. Biosystems (2002)
2) 生物に学ぶ情報技術 大阪大学大学院情報科学研究科 21世紀COEプログラム