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こんにちは。五木田です。私は今、法政大学で植物の病気について勉強しています。
私達が生きていくために必要不可欠な植物。植物は光合成を行い私達動物が出す二酸化炭素を酸素に変えたり、街の景観を保ってくれたりとさまざまな役割を持っています。近年では屋上緑化や植物工場なども誕生し、ますます活動範囲を広めてきています。
そんな植物の持つ機能の第一はなんといっても食糧としての役割です。
皆さんは、地球上で生産可能な食糧の約3分の1は毎年植物病によって失われているという現状を知っているでしょうか?
これは約8億人分の食糧にあたります。世界の人口は年々増え続け、耕地の利用可能面積も減っていっているため農作物の収穫量は減る一方の今、限られた農地で収量を増やすためには、いかに病気の発生を防ぎ、生産量を増やすかが鍵となっていきます。
そこで今回はそんな世界的な問題の解決にも貢献できるかもしれないお仕事、植物の病気を治す「植物のお医者さん」についてお話したいと思います。
植物病って?
そもそも植物病とはどんなものなのでしょうか?誰でも1度や2度は街中で枯れている植物を見かけたことがあるでしょう。
その「枯れ」も植物病の症状の一種です。これからみなさんが身近に接する植物を挙げて、植物の病気の一例を紹介します。
植物の第一の役割は食糧であるといいましたが、私達の食を支えている代表のものといえばなんでしょう?・・・やっぱりお米ですよね。イネの病気では「イネいもち病」などは聞いたことがある方も多いんじゃないでしょうか?もうひとつ被害の多い病気が、「イネ馬鹿苗病」です。
この病気はその名の通り、イネの背丈が馬鹿みたいに伸びてしまう『徒長』が起こることからつけられた病気です。病原体であるGibberella fujikuroiという菌の胞子が種籾に付着することで感染します。この病原菌はジベレリンと呼ばれる細胞分化を促進する植物ホルモンを生産します。
イネの幼い苗が発芽するとき、同時にこの菌の胞子も発芽しジベレリンを分泌することで徒長を促進します。ジベレリンに含まれるジベレリン酸という物質は、「種子が発芽するための細胞を刺激しろ!」という情報を持ったmRNAという遺伝物質を生産します。それが作用してどんどん細胞がつくられるため、植物の徒長という現象が起きます。感染した苗は背が高くなるだけでなく黄色くなったり(黄化)、重症なものは枯死したりしてしまいます。その上感染した苗から風に乗って別の苗の籾に感染する(風媒伝染)ので、その苗が翌年の伝染源となってしまうとても厄介な病気なのです。このような病気によって、お米を作る農家さんたちは頭を悩まされています。
他にも、植物の背丈が逆に小さくなってしまう「わい化」など植物病にはたくさんの症状があります。ちゃんと病名もあるんですよ!例えば、葉の表面がうどんこを振りかけたように白くなってしまう「うどんこ病」や根や茎にコブを作る「根頭がんしゅ病」などが挙げられます。
植物の『声』を聞く、植物のお医者さん
じゃあ、植物が病気になったときどう対処すればいいのか。その方法は病気によって様々です。
農家さんなどは農薬をまいたり、土壌消毒を行ったり、害虫防除のためのネットを設置したり、とても大変な苦労をされて作物が病気にならないよう心がけています。しかし、それだけの努力をされていても防除できなかったり、逆に発病を促進してしまうこともしばしばあります。それは「病気の原因」がわからないためであるケースが非常に多いのです。植物の病気は、水や光の量、温度が適切ではなかったり、ウイルスや菌類が体内に侵入したり、害虫に食べられたりすることで発症します。
そして、植物は自分で症状を訴えることが出来ません。人間の場合は「のどが渇いた!」と思ったら自分で水道があるところまでいけますが、植物は根をはっているため「ここ暗い!光がほしい!水がほしい!虫が来た!」と思っても自分で避けられないため容易に感染してしまいます。かわいそうですね。植物病の症状は同じ「枯れ」でも病原菌は異なり、処方する薬剤も異なります。
人が風邪を引いたときと同じで、病気になった「原因」がわかっていないとお医者さんは「治療」も「予防」も出来ないわけです。そこで、植物の『声』を聞き、その適切な判断を行うのが、植物のお医者さん改め、植物医師です。具体的にどんなことをするのか、その役割をちょっとご紹介します。
植物の診察を覗いてみよう!
私達は病院に行ったら診察を受ける前に問診表を書きますよね?病気になった植物にもちゃんと問診表というものがあるんですよ!植物の持ち主(依頼者)は病気の発生部位や時期、症状の特徴(枯れ、斑点、奇形など)や栽培方法や生育環境など、事細かに質問されます。植物は人間で言う「どのような生活を送っていたか」などの基本状況を自分では話せないのですから、植物病を診断するに当たってどんな環境で育てたか、水はどのくらい与えたかという情報は非常に重要になります。そして問診の後には診断をします
。診断はまず植物を肉眼で見て、全身の症状(全身病徴)を確認し、葉や茎に斑点や壊死など症状(局部病徴)が出ていたらその場でルーペなどにより観察していきます。ある程度の状況が把握できたら、より詳しく見るために顕微鏡で分離した組織を観察して検出できた菌や細菌から病名を同定していきます。
そして、その病気にあった農薬、栽培方法などの治療法を選択していきます。しかし農作物においては病気にかかってしまった株を治療するのは難しいため、あらかじめ病気にならないような環境づくり、適切な農薬の使用が必須となってきます。その農家さんに対するアドバイスも植物医師が行うのです。
このように、植物医師は実際に治療を行うだけでなく、その知識を農家さんや一般の方に伝える、という重要な役割も持っています。
植物のこれから
現在、地球温暖化や食糧飢餓などさまざまな問題がある中で、植物は私達の生活を支える非常に重要な存在といえます。
日本においても地球温暖化対策として都心で屋上緑化などを進めていますが、そこでも病気にかかるリスクというのは非常に高いのです。
そのため病気に対する適切な判断、対処が求められてきます。植物病が蔓延し十分な収穫が出来ない地域がたくさんある現状を打破するためには、いかに病気の発生を防ぎ、生産量を増やすかが大切です。
病気の適切な診断、その病気にあった栽培、治療方法を指導していく植物医師は、食の安全、安定供給を支えていくのに非常に重要な役割となっていくのではないでしょうか?
参考文献
植物医科学(上)著:難波成任
新編 植物病理学概論 著:久能均、白石友紀 高橋壮 露無慎二 眞山滋志 養賢堂発行