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こんにちは、酒井です。
私は、東京工業大学というところで運動と骨の関係について研究をしています。
突然ですが、皆さんは自分の「骨」について考えたことはありますか?
健康ブームで筋トレをする人はいても、骨トレをしようと思う人はあまりいないと思います。しかし骨は、私達の体を物理的に支えているだけでなく、血液を作る場として、カルシウムやリンの貯蔵庫として、健康を守る上で大事な役割を担っています。
丈夫な骨を作ることは、私達にとって大切なことなのです。
しかし、骨を丈夫にするにはカルシウムを摂るだけでよいと思っていませんか?カルシウムはもちろん大切ですが、それだけでは十分ではありません。カルシウム摂取量が多くても、骨折者数が日本より多い国はたくさんあります。カルシウムは、運動による刺激がないと効果的に吸収されないのです。
運動をすると骨の中でどんなことが起こるのか、どんな運動が骨に良いのか、私の研究内容を交えて紹介したいと思います。
骨は日々作りかえられている
無機質なイメージの骨ですが、骨の中には沢山の細胞が住んでいて、カルシウムを取り込んで骨を作る骨芽細胞と、骨を溶かす破骨細胞によって、骨は常に作りかえられています。
古くなった部分を破骨細胞が溶かし、骨芽細胞が新しく作り直すことで、骨はいつも新鮮で丈夫でいられるのです。しかしこの働きは年齢と共に衰え、骨の総量は30歳くらいをピークに減少していきます。
70歳になると、約半数の人がピーク時の70%程度の骨量になってしまうと言われ、それ以下になると骨粗鬆症という深刻な病気になってしまいます(特に女性に多いです)。いつまでも元気でいるためにも、適度な運動で骨芽細胞を刺激して、丈夫な骨を蓄えておくことがとっても大事なのです!
骨芽細胞はどうやって目を覚ます?
では骨芽細胞を刺激するとはどういうことなのでしょうか。実は骨の表面を覆う「骨膜」という薄い膜に、普段あまり働かない休眠中の骨芽細胞がたくさんいることが分かっています。この骨芽細胞の目を覚ましてやることで、いつもより多めに骨が作られるというわけです。
適度な運動を繰り返すと、骨膜中の骨芽細胞が目を覚まして増殖を始め、骨膜は通常の何倍もの厚さになります。その後、増えた骨芽細胞によって骨が作られるのですが、骨芽細胞は全ての刺激に対して同様に目を覚ますわけではありません。
骨芽細胞はどんな刺激を感じ取って目を覚ますのか、骨の研究者にとって、これは大きな謎でした。
骨芽細胞は押しつけられると目を覚ます
この謎を調べるために、実験動物であるネズミ達を使って、様々な実験が行われてきました。
例えばネズミの脚にプレス機を使って多様な刺激を与え、その影響を調べます。力の大きさ、力を与える間隔、頻度を調節しながら、骨芽細胞の数や骨のでき方を細かく調べていきました。その結果、骨芽細胞には次の3つの習性があることを突き止めました。
(1)押しつけられる刺激を受けると骨芽細胞が増える
(2)連続で受ける刺激より、急な刺激を受けた方が骨芽細胞は増えやすい
(3)押しつけっぱなしでは、骨芽細胞が増えない

(1)から詳しく見ていきましょう。運動で骨に力がかかると、骨は僅かに歪みます。この歪みによって、骨表面が押しつけられる場所と、引っ張られる場所(図)ができます。押しつけられる場所では骨がたくさん作られ、引き伸ばされる場所ではあまり作られませんでした。骨芽細胞は、引っ張られても反応しませんが、押されると目を覚ますようです。
(2)はどういうことでしょう?連続の刺激というのは、例えば歩いている時のように、等間隔で刺激がかかる状態です。急な刺激とは、高いところからジャンプして着地するときのように、突然かかる刺激です。骨芽細胞は、急な刺激に敏感なのです。
(3)は、骨にずっと同じ大きさの力を与え続けた状態です。ずっと押し続けるだけでは、新しい骨はほとんど作られませんでした。骨芽細胞はどうやら、急な刺激でびっくりさせないと目を覚まさないようです。
3つの習性をまとめると、骨芽細胞は「押し縮められる場所で急にくる刺激によってよく増える」という変わった性格があるようです。
骨芽細胞に限らず、外からの力が細胞に与える影響は良く分かっておらず、色々な細胞の習性を調べていくことで、細胞に力が伝わるメカニズムが世界中で研究されています。
骨トレをしよう!
骨芽細胞のちょっと変わった性格がわかりましたか?
では、骨の効果的なトレーニングにはどんな運動が良いのでしょう。筋トレとは少しやり方が違います。
常に何十キロもの体重を支えている骨にとって、10~20kgのダンベル運動では効果が薄そうです。骨トレの場合は体重を使った運動、つまりジャンプをするなど、瞬発力を使う運動が効果的です。
ジャンプすると、足の骨には体重の3~5倍もの力がかかります。体重60kgの人なら180~300kgです。この力は足の骨から背骨まで伝わり、体中の骨を刺激します。ジョギングしたり縄跳びをしたり、時にはスキップしてみたり、骨芽細胞をびっくりさせるような運動で、丈夫な骨を作りましょう。(酒井大輔)
【参考文献】
自分の骨のこと知ってますか (著:桜木晃彦 講談社)
新・骨の科学 (著:須田立雄ら 医歯薬出版)
硬組織研究ハンドブック(著:松本歯科大学大学院硬組織研究グループ MDU出版)