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植物は、生まれた場所からほとんど動くことができません。そのため、環境に応じて生きるための工夫をさまざまに行い、次の世代に命をつなごうとしています。
先週のリバコミ!では、植物が周りの栄養バランスに応じて柔軟にかたちを変えて対応している様子について紹介しました。今週は、さらに過酷な栄養条件下で植物が編み出した「確実に子孫を残すための工夫」にせまりたいと思います。
植物ってどんなかたちをしている?
みなさん、植物が種子からどうやって生長していくか意識したことはありますか?種子から芽が出て、茎と葉を伸ばしていきますね。そして、葉の付け根から新しい芽が伸びて枝になり、その先にまた葉がついたり花が咲いたりします。
今回は、葉の付け根から伸びる新しい芽がポイントです。
植物によって、新しい芽があまり出ずに、縦にまっすぐ伸びていくものもあれば、新しい芽を盛んに伸ばし、枝分かれが盛んで横に茂っているものもいます。たいていは一番上の芽(頂芽)が優先的に生長し、上から2番目、3番目の芽(腋芽)の生長は抑制されています。これを「頂芽優勢」といい、この作用が強いと腋芽は出にくく縦に細長いかたちになり、弱いと腋芽がたくさん生じて横に広がったかたちになります。
植物の生長は、「植物ホルモン」と呼ばれる物質によって制御されています。
人間にも成長ホルモンやインスリンといったホルモンがありますよね。それらと同様に、植物ホルモンは少量で植物の生長に大きな影響を与える物質の総称で、現在5~7種類程度が知られています。
なかでも、新しい芽の生長に関わっているのは「オーキシン」と「サイトカイニン」という植物ホルモンです。では、これらは植物体内中でどのように働いているのでしょうか?
複数の物質が働いてできる「頂芽優勢」
オーキシンは頂芽の先端で合成され、茎の伸長を促進する植物ホルモンです。
一方、サイトカイニンは腋芽の生長を促進させる物質です。この2つの植物ホルモンの働きのバランスにより、頂芽優勢は成り立っています。高校の生物の教科書にも簡単なしくみは載っていますが、現在の研究結果からは、以下のこのように考えられています。
茎頂の先端で合成されたオーキシンは、茎を伸ばしながら根元の方へ向かって流れています。植物が生長していく段階で、葉の付け根に腋芽のもとになる細胞(成長点)ができます。これが生長するためには、サイトカイニンが必要になります。しかし、オーキシンがサイトカイニン合成酵素遺伝子(IPT)の発現を抑制してしまうため、腋芽は生長する条件が整うまで、MCXという物質の働きにより休眠状態に置かれます。このように、腋芽の生長が抑えられている間、頂芽が優先的に生長します。
しかし、ここで頂芽を切り落とすとどうなるでしょうか。
頂芽でオーキシンを合成できなくなるため、それまで抑制されていたIPTの合成が始まり、サイトカイニンが合成されるようになります。すると、合成されたサイトカイニンにより腋芽が伸長し、新しい頂芽となるのです。
そして、新しい頂芽でオーキシンの合成が始まり、オーキシンが根元へ向かって流れ、下にある腋芽の生長を抑制してしまいます。このように、頂芽が失われても、新しい頂芽が誕生し、頂芽優勢が維持されていくのです。見えないところで、複数の物質がつくられ、それぞれの役割を担っているのですね。

植物のかたちに秘められた生存戦略
しかし、植物はどうしてこのような複雑なしくみをつくってまで頂芽優勢を維持するのでしょうか?これについて、私は、研究室で育てていた植物からヒントをもらいました。
大学時代、ある植物の変異体について研究をしていました。
その変異体はすべての枝が伸び放題に伸びて、最終的に鳥の巣のように枝が絡まったかたちになってしまいました。それを見て、私はこの個体は「頂芽優勢が弱まった変異体」だと考えました。頂芽優勢を維持するための植物ホルモンのバランスに異常があるのではないか、と。
そして、さらにこの変異体を観察していくうちに、あることに気づきました。伸び放題になっている枝という枝には多くの花がつき、多く実がなりました。しかし、種子はあまり得られず、得られた種子の発芽率も非常に低かったのです。
このように、多くの花が咲いても、元気な種子が得られない状態が何世代も続けば、最終的に種は途絶えてしまいます。しかし、頂芽優勢によって自ら枝の数を絞り、優先的に生長させることができれば、そこに栄養分を集め、効率的に元気な種子をつくることができるでしょう。
これがきっかけで、私は初めて「頂芽優勢」と「生存戦略」をリンクさせることができました。このように書かれた論文はあまり見たことがありませんでした。
植物を観察することによって、教科書には載っていない新しい発見ができたことがとてもうれしかったことを覚えています。
動けないからこそ発達した、多様な生存戦略
ただそこに生えているだけに見える植物は、動けないからこそ、体内では環境に応じて多くの物質が働いていますし、そのかたちや現象には植物の生存戦略が秘められています。
先週から2週に渡って、主に栄養条件にかかわる生存戦略について紹介しましたが、まだまだたくさんの生きる工夫が植物には隠されているでしょう。
みなさんも、ちょっと気にかけて観察してみれば、今まで見てきた植物の世界が変わるかもしれませんね。(百目木幸枝)
<参考文献>
「植物の軸と情報」特定領域研究班編集,植物の生存戦略「じっとしているという知恵」に学ぶ,pp.186-209,朝日新聞社(2007)