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友達と話している時や、誰かの話をしているときに、「空気読めよな~」とか、「あいつは空気読めないやつだな~」なんて話をした経験はないでしょうか?この「空気を読む」とは、科学的にどういう状態を指すのでしょうか。
実験中の偶然の出来事
実は、今から10年ほど前、実験中に起こったほんのちょっとした出来事により、この「空気を読む」ことに関する科学的事実が発見されました。
ある日、イタリアのパルマ大学で、神経科学を専門とする研究チームが実験をしていました。
その実験とは、マカクザルの運動前野と呼ばれる脳領域に電極を刺して、サルが手を使っておやつをとる際の神経活動を調査するというもの。マカクザルはサルの中でも比較的賢いサルとして知られ、脳の研究分野ではよく使われている実験動物です。実験中では、神経細胞が活発化する時間とタイミングなどが記録装置に記録されるとともに、「バリバリバリッ」という音を実際に耳で聞くことができるようになっていました。
この実験の合間に、研究者はひと休みすることにし、ジェラート(さすがイタリア!)を食べていたそうです。その時、突然「バリバリバリッ」という音が聞こえてきました。
サルを振り返ってみても、手を動かしている様子はありません。
一体なにが起きているのでしょうか?
2種類の条件に反応する奇妙な神経細胞
通常、1つの神経細胞は1種類の条件にしか反応しないと言われています。例えば、手を動かしたときに反応する神経細胞は、手を動かさない時に対しては反応を示しません。1つの神経細胞が、サルが手を動かして実際におやつを取る時と、サルが手を動かしていない時の2種類の条件時の両方で反応するなんてことは、通常ありえないことなのです。
そこで、この現象を解明するために同じ条件で再度実験しました。
ジェラートにだけ反応するのか、おやつそのものに原因があるのか、実はどこか体を動かしていたからなのか、ジェラートを持っていた特定の研究者の時だけ反応しているのか、などと考えられる原因はたくさんあります。
これらをひとつひとつ検証した結果、どうやら、サルがおやつを自分の手でつかむ時と、だれかがおやつを食べようとするのを見ている時に、ある奇妙な神経細胞が反応していることを突き止めました。
ジェラートをみるサルの頭の中
ここで、サルが実験室の中でどのような状況下にあったのかを、改めて解説しましょう。
サルに言う事をきかせたい研究者は、サルにおやつを見せて、「ちゃんと実験に協力してくれたらおやつが食べられる」という、実験に参加すれば美味しい食べ物をもらえることをあらかじめ教えています。
すると、当然サルは研究者の手の中にあるジェラートに興味を示すようになります。そんな折、研究者がサルの目の前でジェラートを美味しそうに食べていれば、サルはそのジェラートを食べたいな~いいな~ほしいなぁ~と思うようになります。
先ほど述べたように、通常、1つの神経細胞は1種類の条件にしか反応せず、2つの条件、つまりおやつを自分でつかむ時と、誰かがおやつをつかむのを見る時に反応することはないと考えられていました。つまり、こうした特別な状態には、なにかしら特別の意味があるはずなのです。
研究チームは、自分が食べる時と同様に、誰かが食べようとするのを見るときも、あたかも自分がその食べ物を食べている姿を想像することが、手を伸ばしておやつを取る際の神経細胞を活性化しているのではないかと考えたのです。
そして、この、“実際に動く”と、“他者の行動を観察する”という両方の行為に反応する神経細胞を、「ミラーニューロン(鏡のように連動するという意味で)」と名付けました。
ミラーニューロンとコミュニケーション
いまでは、このミラーニューロンは、非言語コミュニケーションに関連する神経細胞として知られています。
それでは、なぜミラーニューロンは存在するのでしょうか?
「言語」によってコミュニケーションをとるのは、人間だけ。ほかの動物にとって、言葉に頼らずに相手の行動の意図を読み取り理解することが、動物社会で生き残るために求められます。つまり、相手の行動を自分のなかで再現し、出来るだけ相手の行動を理解して共感を高めることが、共同生活を可能にしているとも言えるのです。
これが、「空気を読む」という行為につながっていると考えられます。
さらに、驚くことにこのミラーニューロンは、運動前野に位置し、言語コミュニケーションに関する脳領域である「言語野」の一部でもあるのです。
現在、サルなどの言語を持たない動物から、言語をもつ人間のコミュニケーション方法がどのように進化したのか研究が進められています。
ミラーニューロンの研究がより進むことにより、この進化の過程があきらかになる日も近いかもしれませんね。(樋口さとみ)
参考文献:
Language within our grasp