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細菌たちの集団行動 ~集え!仲間たちよ!~

  • (2010/01/17)
  • カテゴリー: General
正月も終わってしまいましたが皆さんは年末年始の冬休みをどう過ごしましたか?
僕はせっかくの休みということで久しぶりに大学の友達と何人かで映画を見に行きました。ところが、友達の一人が完全に寝坊してしまい、待ち合わせの時間に間に合いませんでした。仕方なく、「映画館についたら連絡してね!」とメールを送り、結局のところ約束の時間から1時間後になんとか映画を見ることができました。

このように集団行動をとる生き物は人間だけに限らず、他にも多くの生き物が仲間とコミュニケーションをとりながら集団で行動しています。そしてその中には、なんと皆さんの周りにもいるミクロな生き物、細菌も含まれているのです。今日はそんな細菌が集団行動する際のコュニケーションについて迫りたいと思います。


■1匹じゃダメでも仲間がいればまさに敵なし!

細菌は私たちの身の回りのいたるところに存在しており、たくさんの種類がいます。その大きさはわずか0.5~2μm(μ:マイクロ,1μm=0.001mm)しかありませんが、中には病気を引き起こす病原菌などがいます。この病原菌は私達の体の中に進入すると病原因子となる毒素などをつくって病気を引き起こします。
でも、体内に侵入した病原菌がたった1匹しかいなかった場合ではどうでしょうか?
当然ながら、小さな病原菌がたった1匹いるだけでは病気を引き起こすのに十分な量の毒素をつくれないので、病気を引き起こすことはできません。しかし、病原菌1匹じゃあダメでも大量に集まることで全体として多くの毒素を生産することができ、その病原性を発揮することができます。そこで多くの病原菌は、仲間が少ないときは無駄な毒素の生産を抑え、逆に病原性を発揮するのに十分なほど多くの仲間が集まるといっせいに毒素の生産を開始するのです。
これではまさに多勢に無勢、たくさんの病原菌がいっせいに毒素をつくればさすがに私たち人間も大ピンチです。


■「着いたら連絡してね♪」連絡しあう菌たち

では病原菌たちはどのようにして、仲間が集まったことを確認しているのでしょうか?私たち人間の場合なら、待ち合わせ場所に到着したことをメールや電話で連絡しあったり、辺りを見回して仲間を探したりできます。しかし、病原菌たちはさすがに携帯電話を持っていないし、ましてや人間のように目があったり言葉を使って話したりはできません。
そこで病原菌たちは、「オートインデューサー」と呼ばれる化学物質を体外に分泌することで「自分はここにいるよ!」という合図を他の菌に対して送っているのです。そして病原菌の増殖によってたくさんの仲間が集まり、病原菌周辺のオートインデューサーの濃度が高くなると、仲間たちから「自分はここにいるよ!」という合図をたくさん受け取ることになります。
そのため、オートインデューサーの濃度がある程度まで高くなると病原菌は「よし、けっこう集まったな。そろそろやっちゃいますか!」と仲間と共にいっせいに毒素を作るための遺伝子を働かせて、毒素の生産を始めるのです。これにより、1匹のときと違って多くの毒素が生産され、病原菌はその病原性を十分に発揮します。
このようにオートインデューサーを分泌して合図を出し、それをキャッチすることで仲間がどれだけ集まったかを感知して物質の生産をコントロールするしくみを「クォーラムセンシング」といいます。



このクォーラムセンシングは様々な細菌が利用しており、今回の毒素生産の他にVibrio fischeri という細菌の発光物質の合成や、Serratia marcescens の赤色色素の合成、以前リバコミでも紹介した細菌によるバイオフィルム(リバコミ!「細菌も社会を作る!?」http://livacomi.jp/item_1197.html )の形成などにも関係しています。


■「仲間が集まらない?!」連絡を絶つ研究

このクォーラムセンシングに関しては、現在も多くの研究者たちにより研究が進められています。中でも特に注目されているのが、このクォーラムセンシングというしくみを感染症の新しい治療方法に応用しようとする研究です。
クォーラムセンシングにおいて、「ここにいますよ!」という合図になるオートインデューサーを分解したり、結合してその働きを失わせたりするような化合物があれば、たとえ病原菌の数が増えたとしても仲間に合図が届くことはありません。「まだ集まらないなぁ…」と病原菌に錯覚させて毒素を作らせないようにし、病気を抑えようというのです。多くの研究者がそのような化合物を人工的に作ったり、生き物の体の中から探したりといった研究を今も進めています。

また、現在は病原菌に感染したときの治療薬として主に抗生物質という薬が使用されていますが、これは病原菌を直接的に殺してしまう効果を持っており、使用すると抗生物質の効かない病原菌のみが生き残ってしまい、それが増えてしまうという問題点がありました。そのため、まるでイタチごっこのように新しい抗生物質が開発されてもすぐにその抗生物質が効かない病原菌が増えていき、抗生物質のみの治療は困難となってきています。
ところが、クォーラムセンシングを阻害する治療法の場合、抗生物質と違って病原菌を直接やっつけるわけではありません。毒素をつくらせないようにして病気を抑えるので、抗生物質のように薬の効かない病原菌が生き残って増えるということはありません。このようにクォーラムセンシングを邪魔することが新しい病気の治療方法として注目されているのです。


■まだまだ広がる微生物の世界
今回は「ここにいますよ!」という合図を菌たちが出し合うクォーラムセンシングを紹介しました。しかし、私達の目には見えない小さなミクロの世界にはまだまだわかっていないことがたくさんあります。もしかしたらマンガにでてくるように、小さな微生物たちは私達の知らない言葉を使って他愛もない会話をしている可能性だってあります。魅力の尽きない微生物の世界を解き明かす研究にこれからも目が離せません。
(九州大学 仲栄真 礁)

【参考文献】
宇都宮大学 大学院工学研究科 生物工学研究室ホームページ
http://www.chem.utsunomiya-u.ac.jp/lab/bio/research.html
『遺伝子から見た応用微生物学』 著者 熊谷英彦 他 朝倉書店


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