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2007 年、日本から世界へ、研究者を興奮させるような発表が あった。その研究の中心にいたのは、玉置祥二郎さん。右も左も わからない研究分野に入って6 年。たった6 年で、世界を驚か せるような成果を出せたのは、実力はもちろんのこと、一から学 べるしくみと支えてくれた人たちのおかげであった。

学部時代は植物、その中でも日本人に一番身 近な「イネ」を育てる研究を行っていた。田圃 に出て、トラクターや運搬車を運転し、イネを 栽培するのが主な仕事だ。どんな肥料をあげれ ばうまく育つのか。それは、科学的な視点より 感覚的な部分や経験則による部分が多かった。 「今後は、植物を経験則ではない別の方面か ら研究をしたい。その中でも日本人の主食、イ ネについて、もっと深く知りたい」。そこで、 分子生物学的にイネを研究している研究室があ る奈良先端科学技術大学院大学(NAIST ) に進学することを決めた。

研究分野が変わることで、不安はあった。今 まで、野外での活動が多く、分子生物学的なこ とをやっていなかったために研究自体が全く想 像できなかったのだ。しかし、実際に入学して みると研究に対する不安はすぐに消し飛んだ。 NAISTには、他の大学院にはない教育計 画がある。入学するとまず、3ヶ月を超える集 中講義が行われ、基礎知識をしっかりと固める。 入学時の知識レベルに応じて、ひとりひとりの カリキュラムが組まれるため、他分野からの学 生も不安なく研究に入ることができる。 研究室に配属されるのは入学から半年後。高 度な機器が揃い、研究に専念する環境の中で、修 士1年生からポスドクまですべての学生に教授 もしくは准教授がつき、研究計画のきめ細かい 指導をするのはもちろんのこと、担当の教官以 外に複数の教官が研究のアドバイスを行う。世 界に通用する研究者を育む教育カリキュラムだ。
「ここは、研究する環境としては抜群です」 と笑顔で語る。玉置さんの行っている研究は、 花が咲くメカニズムを解明するというもの。そ れには、「フロリゲン」という物質が大きく関 わっている。フロリゲンは、葉で作られ、花芽 がつく場所である茎の先端まで運ばれることは わかっていたが、どのような物質であるのかは 解明されていなかった。2005年、フロリゲ ンはmRNAであるという発表がされ、フロリ ゲンの研究に終止符がうたれたと感じた研究者 もいた。周りからもmRNAで決まりとの声も あったが、これまでの実験結果から、玉置さん は「タンパク質がフロリゲンの正体ではないか」 という仮説を持つようになっていた。指導教官 の島本功教授のところに相談に行くと「君がこ れまでやってきた実験のデータを信じる。もっ とはっきりとしたデータが出るまでやってみな さい。写真が一番の証拠になる」と言ってもら えた。島本教授に自分のデータを信じてもらえ たということが嬉しかった。 玉置さんが注目していたのは、イネの開花に 関係するといわれている「Hd3a 」というタ ンパク質。それらがどこにあるのかを、顕微鏡 写真を用いて調べていた。思うような結果が出 ず、諦めかけたこともあった。そのたびに、島 本教授から「最後までやろう」と励まされた。 その言葉があったからこそ、諦めずに研究を続 けられた。
2007年春。信じ続けた自分のデータの結 果が出た。「フロリゲンはタンパク質・Hd3 a である」。2005年の発表を覆す結果となっ た。この研究結果は、2007年5月のサイエ ンス誌に掲載された。日本人に一番身近な植物 イネを使って、世界中の研究者に衝撃を走らせ る発表をすることができたのだ。「信じられな い」。それが最初の感想だった。 初めて、第一執筆者として出した論文が科学 の最高峰といわれる雑誌に載り、念願の博士 号も取得した。1年間卒業を遅らせて、自分の 研究にこだわった甲斐があった。「あきらめな かった、そして信じてくれる人がいたからこそ できた研究」と玉置さんは振り返る。基礎から しっかり学べるカリキュラム、研究に没頭でき る環境、そして何よりも自分を信じてくれる人 に出会ったからこそできた発見であった。今後 もずっと研究に携わっていたいと願い、今日も 植物を使って花が咲くしくみの研究に励んでい る。( 文・尾崎 有紀)