株式会社リバネス運営ウェブサイトメディア開発事業部(担当:もう)|リバネスコーポレートサイト

「動物のお医者さん」獣医と聞くと街の動物病院でイヌやネコを診る姿が目に浮かぶ。しかし宇根さんが研究するのは野生動物やエキゾチックアニマルだ。相談を受ければチーターやゾウなど大型の哺乳類から、カエル(両生類)やカメ(爬虫類)など、様々な動物の病理学的診断を行う。これほど多種多様な動物の病気の研究をはじめたきっかけは1999年にさかのぼる。
「爬虫類や両生類もわたしたちと同じ生き物でしょ。少しでも健康で長く生きられる方が絶対幸せだし、そのためにわたしたちも努力しなければならないと思います」1999年、海外から1年間に持ち込まれる生物はおおよそ400万頭、そのうち哺乳類と爬虫類が全体の80%以上を占めると厚生省(現:厚生労働省)が発表した。家畜などを除いて、日本に入ってくる動物についての統計がとられたのはこれが初めてのこと。当時、日本に持ち込まれる爬虫類は非常に短期間に命を落とすことが多く、カメレオンの寿命は切り花に例えられるほどだった。獣医学はもともと家畜のための学問。爬虫類や両生類については獣医学の分野でも教育・研究が不十分で、病気にかかってしまっても診断や治療をできる獣医師は非常に少なかった。「爬虫類・両生類の飼い方や病気に、獣医師として取り組んでいきたい。最低限の知識と技術を身につけなくては。」奮起した宇根さんは2000年に爬虫類・両生類の病気に関する研究グループを立ち上げた。動物種が違えば病気の原因や症状もさまざま。例えば人間は温度が低い、紫外線の量が少ないというだけで病気にはならないが、爬虫類・両生類はこうした環境の違いに過敏で、病気になることがあるのだ。新しい動物種を扱う難しさはあったが活動を開始してから、ある年はカメ、ある年はカエルと年ごとにテーマを絞り次々に研究を重ねていった。そして2006年、宇根さんは“カエルツボカビ症”に巡りあう。
感染すると致死率は90%以上。ある地域では感染の確認後、たった2ヶ月のうちにカエルが絶滅したという報告までされていたカエルツボカビ症。対処が遅れれば日本の両生類群を激変させる可能性すらある。危機感を感じた宇根さんはすぐさま研究会でこの感染症についての報告を行い、日本に持ち込まれないよう警笛を鳴らした。宇根さんは獣医学の中でも、病気になった動物の組織や細胞の観察を通じて、診断をする“病理学”の専門家だ。光学顕微鏡、電子顕微鏡、遺伝子検査や病原体検査など、考えられるありとあらゆる手法を駆使して、病気の原因を突き止める。カエルツボカビ症なら、感染したカエルの皮膚に特徴的なツボ状の構造をみつけるのが、診断のカギだ。研究会での警鐘から、わずか1カ月後、研究会に出席していた獣医師からペットのカエルが次々に不審な死に方をしていると、通報があった。これがアジア初のカエルツボカビ症であった。「これほど早く見つかったのには驚きました。この危機を早く知らせなくてはと焦りを感じながらも、ただ危ないというだけでは科学者としての責任を果たしていないと思ったのです」宇根さんは調査結果を発表した後、国立環境研究所と共同で検査体制を整備し、感染したカエル発見時の対処方法をまとめた資料「カエルくんを救え!」を作成した。その後、全国14カ所で集団発生が確認されたが、幸いにも、自然環境でのカエルツボカビの流行は確認されていない。
感染症によるカエルの絶滅は決して人間に無関係ではない。捕食者であるカエルの減少により昆虫が増加することで、農作物への被害や、昆虫媒介性の感染症の増加が予想される。食物連鎖という言葉の通り、カエルがいなくなることは生態系全体のバランスを連鎖的に崩壊させる危険があるのだ。「ある動物が死んでしまったとします。それをただ悲しいね、というのではなく、今を生きている動物を生かすための教訓にしてあげる。それが獣医病理学者としての使命だと思っています。」カエルツボカビ症に続き、最近、宇根さんはラナウイルスという新種の感染症により何万匹単位でカエルが大量死していることも突き止めた。 生き物を大切に思う気持ちから始まった野生動物やエキゾチックアニマルの研究は、今や人間の経済活動や自然環境の保全にとっても大きな意味を持ちはじめている。宇根さんの本来の研究テーマはチーターやリスザルなどの病気だが、最近は両生類の病気に時間をとられ、休日返上で頑張っている。動物の病気を捉えるハンターの戦いに終わりはない。